ホーム>在宅医療>新人薬剤師・看護師向け!中心静脈栄養(TPN)の高カロリー輸液の種類・特徴・使い分けをわかりやすく解説
目次

「輸液って種類が多すぎて覚えられない……」

日々の業務の中で、いつの間にか「医師から指示されたものをそのまま払い出す」ことが当たり前になってしまっていました。 そんなある日、自店舗の薬局には在庫がない輸液が処方されるという出来事が。

慌てて医師へ疑義照会の電話をかけたとき、返ってきたのはこんな一言でした。

「じゃあ、同じ系統でいま薬局にある輸液は何?」

……背中に変な汗をかいた瞬間でした。「同じ系統の輸液ってどれだっけ?」とっさに答えられず、自分の知識不足を痛感しました。

「これではいけない。言われるがままではなく、輸液の分類や意図を自分でしっかり理解できるようになろう!」 そう決意して、このノートに輸液の分類と使い分けをまとめることにしました。


📖 はじめに:なぜTPN(中心静脈栄養)が必要なの?

「患者さんの栄養状態が悪いから、点滴でしっかりカロリーを入れよう!」

そう思ったとき、手足の細い血管(末梢静脈)から濃い栄養液を点滴するとどうなるでしょうか? 実は、血液よりもはるかに濃い(浸透圧が高い)液を末梢の血管に入れると、血管が傷ついて強い痛みが出たり、静脈炎を起こしてしまいます。一般的に、 末梢静脈から入れられる輸液の濃さは「血液の約3倍(浸透圧比3)まで」 と決まっています。

しかし、水や食事を全く摂れない患者さんが生きていくためには、1日に1,000〜2,000kcal以上のエネルギーが必要です。これを浸透圧比3以下の薄い液で補おうとすると、とんでもない量(1日何リットルも!)の水分を点滴しなければならず、体がパンパンにむくんだり心臓に負担がかかってしまいます。

そこで登場するのが 中心静脈栄養(TPN:Total Parenteral Nutrition) です。 心臓の近くにある、太くて血流が非常に速い血管(中心静脈)にカテーテルを入れて、濃い栄養液(高カロリー輸液)を一気に血液で薄めながら投与する方法です。これにより、少ない水分量で生きていくのに十分なカロリーや栄養を補給することができます。


💧 TPN製剤の大きな分類

TPN用の輸液は、大きく2つのグループに分けられます。

昔からある、アミノ酸などを自分で混ぜる必要がある 1️⃣「TPN基本液」

最初からいくつかの栄養素がセットになっている便利な 2️⃣「TPNキット製剤」 です。


1️⃣ ① TPN基本液

「糖質」と「電解質(ナトリウムやカリウムなど)」だけが入っている、高カロリー輸液のベースとなる製剤です。

製品名 容量
(mL)
Na K Ca Mg Cl 糖質
(g)
総カロリー
(kcal)
ハイカリック1号 700 - 30 8.5 10 - 120 480
ハイカリック2号 700 - 30 8.5 10 - 175 700
ハイカリック3号 700 - 30 8.5 10 - 250 1000
ハイカリックNC-L 700 50 30 8.5 10 49 120 480
ハイカリックNC-N 700 50 30 8.5 10 49 175 700
ハイカリックNC-H 700 50 30 8.5 10 49 250 1000
ハイカリックRF 250 12.5 - 1.5 1.5 7.5 125 500
500 25 - 3 3 15 250 1000
1000 50 - 6 6 30 500 2000
リハビックス-K1 500 5 10 4 1 - 85 340
リハビックス-K2 500 - 15 7.5 2.5 - 105 420

※ 電解質の単位: mEq/容器

💡 TPN基本液の各論・使い分け

  • 特徴: これだけではタンパク質(アミノ酸)やビタミンが足りないため、使う直前に 高濃度アミノ酸製剤やビタミン剤、微量元素などを「混注(混ぜる)」 する必要があります。
  • ハイカリック(1号・2号・3号): 最も基本的なTPN輸液。NaやClを含まないため、電解質を別に細かく調整したい時に便利。数字が大きいほど糖質(カロリー)が多い。
  • ハイカリックNC(L・N・H): 基本のハイカリックに、あらかじめNa(ナトリウム)とCl(クロール)を加えたもの。
  • ハイカリックRF: 腎不全の患者さん用。カリウムが含まれておらず、少ない水分で高いカロリーが摂れるようになっている。
  • リハビックス(K1・K2): 主に小児用に開発されたTPN基本液。K1とK2でカロリーや電解質濃度が異なる。

2️⃣ ② TPNキット製剤

現在、日本の病院や在宅医療で最もよく使われているのが「キット製剤」です。 あらかじめバッグの中が2つ以上の部屋に分かれており、使う直前に隔壁を開通させる(ギュッと押して開通させる)ことで、複数の栄養素が混ざる仕組みになっています。これにより、混注の手間や細菌が混入するリスクを劇的に減らすことができます。

キット製剤は、 「何がセットになっているか」 でさらに分類できます。

🌟 種類A:糖質 + 電解質 + アミノ酸

基本液に「アミノ酸」がプラスされたキットです。ビタミン剤などは別に注射器で混ぜる必要があります。

製品名 容量
(mL)
Na K Ca Mg Cl 糖質
(g)
アミノ酸
(g)
総カロリー
(kcal)
ピーエヌツイン1号 1000 - - - - - 120 20 560
ピーエヌツイン2号 1100 50 30 8 6 50 180 30 840
ピーエヌツイン3号 1200 51 30 8 6 50 250.4 40 1160

※ 電解質の単位: mEq/容器。ピーエヌツイン1号は資料に電解質記載なし。

💡 種類A(糖+電解質+アミノ酸)の各論・使い分け

  • ピーエヌツイン: アミノ酸が含まれていますが、ビタミンが含まれていないため、必ずビタミン剤(特にビタミンB1)を混注して使います。1号〜3号まで総液量が異なります。

🌟 種類B:糖質 + 電解質 + アミノ酸 + ビタミン剤

現在、非常に多くの現場で主流となっているタイプです。アミノ酸に加えて、1日に必要な「マルチビタミン」も最初から入っています。

製品名 容量
(mL)
Na K Ca Mg Cl 糖質
(g)
アミノ酸
(g)
総カロリー
(kcal)
ネオパレン1号 1000 50 22 4 4 50 120 20 560
1500 75 33 6 6 75 180 30 840
2000 100 44 8 8 100 240 40 1120
ネオパレン2号 1000 50 27 5 5 50 175 30 820
1500 75 41 7.6 7.5 75 262.5 45 1230
2000 100 54 10 10 100 350 60 1640
フルカリック1号 903 50 30 8.5 10 49 120 20 560
1354.5 75 45 12.75 15 73.5 180 30 840
フルカリック2号 1003 50 30 8.5 10 49 175 30 820
1504.5 75 45 12.75 15 73.5 262.5 45 1230
フルカリック3号 1103 50 30 8.5 10 49 250 40 1160

※ 電解質の単位: mEq/容器

💡 種類B(糖+電解質+アミノ酸+ビタミン)の各論・使い分け

  • ネオパレン(1号・2号): アミノ酸とビタミンがセットになっています。1日2,000mL投与したときに、1日分のビタミンがちょうど満たされるように作られています。
  • フルカリック(1号・2号・3号): ネオパレンと同じくアミノ酸・ビタミン入りです。液量のラインナップが細かく、患者さんの必要な水分量に合わせて使い分けがしやすいのが特徴です。

🌟 種類C:糖質 + 電解質 + アミノ酸 + 脂肪

TPNでは糖質ばかりを補給すると肝臓に負担がかかったり血糖値が上がりすぎたりするため、「脂肪」をエネルギー源として使うことが重要です。

製品名 容量
(mL)
Na K Ca Mg Cl 糖質
(g)
アミノ酸
(g)
脂質
(g)
総カロリー
(kcal)
ミキシッドL 900 35 27 8.5 5 44 110 30 15.6 700
ミキシッドH 900 35 27 8.5 5 40.5 150 30 19.8 900

※ 電解質の単位: mEq/容器

💡 種類C(糖+電解質+アミノ酸+脂肪)の各論・使い分け

  • ミキシッド(L・H): アミノ酸・糖・電解質に加えて、白い「脂肪乳剤」がセットになっています。
  • ⚠️注意: 脂肪の粒子は大きいため、点滴の途中に細菌などを取り除くための「0.22μmのフィルター」を使うと目詰まりしてしまいます。フィルターを外すか、脂肪を通す1.2μmの専用フィルターを使う必要があります。

🌟 種類D:糖質 + 電解質 + アミノ酸 + ビタミン + 微量元素

「微量元素(亜鉛や鉄など)」が最初から配合されている究極のキット製剤です。長期間のTPNで不足しがちな微量元素を補うための手間が省けます。
※注:日本では現在、脂肪まで含んだ完全なオールインワン製剤はありません。

製品名 容量
(mL)
Na K Ca Mg Cl 糖質
(g)
アミノ酸
(g)
総カロリー
(kcal)
エルネオパNF1号 1000 50 22 4 4 50 120 20 560
1500 75 33 6 6 75 180 30 840
2000 100 44 8 8 100 240 40 1120
エルネオパNF2号 1000 50 27 5 5 50 175 30 820
1500 75 41 7.6 7.5 75 262.5 45 1230
2000 100 54 10 10 100 350 60 1640
ワンパル1号 800 50 25 8 6 50 120 20 560
1200 75 37.5 12 9 75 180 30 840
ワンパル2号 800 50 30 8 6 50 180 30 840
1200 75 45 12 9 75 270 45 1260

※ 電解質の単位: mEq/容器。また両製剤とも鉄・マンガン・亜鉛・銅・ヨウ素の5種類の微量元素を含有しています。

💡 種類D(糖+電解質+アミノ酸+ビタミン+微量元素)の各論・使い分け

  • エルネオパNF(1号・2号): 長期TPNで必須となる微量元素までが全てワンパッケージになっています。1日2,000mLの投与で、1日に必要なビタミンと微量元素を満たすように設計されています。
  • ワンパル(1号・2号): エルネオパと同様のオールインワン製剤ですが、1日1,600mLの投与で1日分のビタミンと微量元素が満たせるよう、少し濃縮して設計されています。心不全などで水分制限がある患者さんに便利です。

💡 おまけ:ここがポイント!薬剤師・看護師の注意点

TPNを扱う上で、絶対に知っておくべき重要なポイントが2つあります。

1. ビタミンB1の入れ忘れは「命に関わる」

TPNのように大量の糖質(ブドウ糖)を体の中に入れると、それをエネルギーに変換するために、体の中で 「ビタミンB1」 が大量に消費されます。 もし、ビタミンが入っていない製剤(ピーエヌツインなど)を使っているのに、ビタミンB1の混注を忘れてしまうと、体の中のビタミンB1が枯渇し、 「乳酸アシドーシス」 や、意識障害を起こす 「ウェルニッケ脳症」 という命に関わる重大な副作用が起きてしまいます。 👉 「TPNには必ずビタミンB1をセットで!」  は鉄則です。ネオパレンやフルカリックがよく使われるのは、この「入れ忘れ」を防ぐためでもあります。

2. 「フィルター」の目詰まりに注意

TPNは中心静脈に直接栄養を入れるため、細菌感染を防ぐ目的で点滴ラインの途中に「インラインフィルター(通常0.22μm)」を付けるのが標準的です。 しかし、 脂肪乳剤(ミキシッドなど) を使う場合は、脂肪の粒子が0.22μmより大きいため、フィルターを通せません。無理に通すと目詰まりして点滴が落ちなくなったり、圧が上がって破裂する危険があります。 👉 脂肪を含む製剤を使うときは、「フィルターの有無・種類」を必ず確認しましょう。


📝 まとめ:どうやって選ぶの?

医師がTPNのメニューを決める時は、次のようなステップで考えています。

  1. 基本方針:患者さんの状態が安定していて、標準的な栄養補給でよければ、手間も感染リスクも少ない 「ビタミン入りのキット製剤(ネオパレンやフルカリックなど)」 を選びます。
  2. 脂肪の追加:長期間の絶食が続く場合や、糖質だけでカロリーを摂るのが難しい(糖尿病など)場合は、脂肪入りの 「ミキシッド」 などを検討します。
  3. オーダーメイド:腎臓が悪い、特定の電解質が足りないなど、微調整が必要な場合は 「基本液(ハイカリックなど)」 をベースにして、必要な成分だけを注射器で足していきます。

「これはビタミンが入っている製剤だっけ?」「脂肪は入っている?」と意識しながら輸液のパッケージを見るようにすると、毎日の業務がもっと面白く、安全になりますよ!

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