クレーム対応で学んだ「アサーション」の大切さ:正論だけでは伝わらない
ある日のこと。いつも「リスペリドン内用液」を定期で飲んでいる患者さんに、今回は頓服として「リスペリドン錠」が処方されました。私は処方箋通りに錠剤を調剤し、窓口でお薬を見せてお渡ししました。その時は納得して帰られたはずが……後になって「どうして頓服が錠剤なんだ!」とお怒りの電話が。良かれと思って「処方箋通りです」と説明したところ、火に油を注ぐ結果になってしまいました。
お医者さんの診察室でどんな会話があったか、私たち薬剤師には分かりません。だからこそ処方箋から状況を推測する必要がありますが、時にはすれ違いが起きてしまいます。今回は、私自身の失敗体験から学んだクレーム対応と、自分も相手も大切にするコミュニケーション**「アサーション」**について深掘りします。
🔍 1. なぜ患者さんは怒ってしまったのか?
今回のケースでは、患者さんは「いつも液体の薬だから、頓服も当然液体だろう」と思い込んでいました。 そして、薬剤師側が勝手に薬の形を変えたのではないか、配慮が足りないのではないかと不満を持たれたのです。
ここで私がやってしまった最大の失敗は、「正論(ルール)をぶつけてしまったこと」 です。
| 確認すべきだった患者さんの心理 | 私の思い込み | 結果 |
|---|---|---|
| 「いつもと違う!どうして?」という驚き・不安 | 処方箋通りに正しく調剤したから問題ないはず | 患者さんの気持ちが置き去りになり、怒りが増幅 |
幸い、薬局には電話の録音機能がありました。後から上司と一緒に聞き返してみると、私には「相手の言葉を繰り返す(オウム返し)」ことや、「まず相手の気持ちを受け止める」という基本がすっぽり抜けていたのです。学校で習ったはずなのに、いざクレームを受けると焦ってしまい、知識を行動に移せていませんでした。
🔄 2. 実際の対応を振り返る(失敗例と改善例)
クレーム対応において重要なのが 「アサーション」 です。アサーションとは、相手の気持ちを尊重しつつ、こちらの意見や状況もしっかりと伝えるコミュニケーションスキルのことです。
【事例1:理由の説明のしかた】
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患者さん:「なんで頓服は錠剤で出したの?配慮がないんじゃない?」
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❌ 私の失敗対応:「処方箋に載っている薬をお渡しするのが薬剤師の役目です。それ以外の薬を出すのは違法になってしまうため、できません。」
- 反省点: 間違ったことは言っていませんが、冷たい印象を与えます。相手の感情に全く寄り添っていません。
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⭕ アサーションを意識した改善対応:「そうですよね、(液体だと思っておられたのに)こちらの配慮が足らず、大変申し訳ございません。ただ、国の制度で、処方箋に書かれたお薬以外を出すことは健康被害につながる恐れもあるため、薬剤師一人の判断で勝手に変更することはできない決まりになっているんです。」
【事例2:話を聴く姿勢(オウム返し)】
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患者さん:「液体の薬に変えてほしかったのに!」
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❌ 私の失敗対応:「ですから、お医者さんに言っていただかないと変えられないんです。」
- 反省点: 相手の言葉を受け止めず、言葉を遮るように言い返してしまっています。
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⭕ アサーションを意識した改善対応:「液体の薬がよかったのですね(オウム返し)。ご希望に添えず申し訳ありません。お薬の形を変えるにはお医者さんの許可が必要になりますので、よろしければ私から病院に確認してみましょうか?」
💡 3. 先輩からの金言:「怒りの矛先」を変えるテクニック
この出来事のあと、先輩薬剤師からクレーム対応のコツについて、もう一つ重要なアドバイスをもらいました。それは 「怒りの矛先(ターゲット)を自分以外に向けること」 です。
今回の場合、患者さんの最初の怒りは「勝手に薬を変えた(配慮が足りない)薬剤師」に向かっていました。 しかし、ここで「 国の制度(ルール) で、処方されたお薬以外を出すことができない決まりになっている」という話をするとどうなるでしょうか?
患者さんにとっての「敵」が、目の前の薬剤師から「国の厳しいルール」に変わるのです。
「私も本当はご希望通りにしてさしあげたいのですが、ルールのせいでできないんです」というスタンスを取ることで、患者さんと薬剤師が「共通の敵(ルール)」に向かって一緒に悩む味方同士になれます。これにより、相手の怒りをスムーズに鎮めることができるのです。先ほどの【改善例1】で「薬剤師一人の判断で勝手に変更することはできない」と伝えたのも、実はこの「敵をルールに変える」テクニックを意識したものでした。
🎯 4. クレームを学びに変えるために
患者さんからのお叱りは、できれば避けたいものですが、対応次第では信頼関係を深めるチャンスにもなります。
- まずは受け止める: 相手が怒っている時は、まず「オウム返し」を使い、感情を受け止めます。「〇〇で驚かれたのですね」「ご不便をおかけしました」とワンクッション置くことが大切です。
- 事実と代替案を伝える: こちらの事情(法律や処方箋のルール)を伝える時は、クッション言葉の後に丁寧に説明し、「どうすれば解決できるか(疑義照会など)」を提案します。
- 振り返りを行う: 今回のように録音を聞き返したり、上司・同僚に相談したりして、客観的に自分の対応を評価することが成長に繋がります。
📝 5. まとめ:明日からの服薬指導に向けて
頭では「寄り添うことが大事」と分かっていても、とっさの場面でアサーションを実践するのは難しいものです。
- 「オウム返し」を意識する:普段の服薬指導から、患者さんの言葉を繰り返して相槌を打つクセをつける。
- 推測を伝える:処方箋を見て「いつもと違う」と感じたら、投薬時に「今回は頓服は錠剤が出ていますが、お医者様からお話はありましたか?」と先回りして確認する。
- 正論の前にクッション言葉:「できません」と言う前に、「ご希望に添えず申し訳ありませんが」を必ず挟む。
- 共通の敵を作る:断らざるを得ない時は、「国の制度」や「お薬の安全上のルール」など、自分以外の部分に理由を持たせる話し方を意識する。
今回の失敗と悔しい経験を忘れず、これからの対応では「まずは相手の気持ちを受け止める」ことを、しっかりと行動に移していきたいと思います。