手術跡の傷や真皮まで届く深い傷に対するケアと薬剤師が考えたいこと
先日、調剤待ちの患者さんから「3ヶ月前に膝の手術をして、縫合した傷が盛り上がって赤くなっているんです。この上から貼る市販のテープでケアできるか知りたい」と相談されました。
傷あとが赤く盛り上がる「肥厚性瘢痕」のリスクがある段階で、漫然と市販の保湿剤だけを勧めるのは、専門家として不十分かもしれない。そう気づいてから、傷あとケアについて改めて深く学ぶようになりました。
傷は塞がれば終わりではありません。組織修復の過程で炎症が長引くと、見た目や機能に影響する「傷あと」として残ってしまうことがあります。患者さんのQOLを守るために、薬剤師が知っておくべき知識を整理します。
🔬 1. なぜ「傷あと」は残るのか?メカニズムを知ろう
傷あとが目立つ主な原因は、真皮まで及ぶ損傷により創傷治癒過程で炎症が長引き、線維芽細胞が過剰に活性化されてコラーゲンが過剰に産生されるためです。
特に「肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん)」や「ケロイド」は、患者さんの悩みの種になります。
| 肥厚性瘢痕 | ケロイド |
|---|---|
| 傷の範囲内に盛り上がる | 傷を越えて広がる |
| 時間とともに改善することが多い | 自然軽快しにくい |
| 炎症は比較的軽い | 炎症が慢性的に続く |
手術後やけがのあとに傷が治る過程で、「肥厚性瘢痕」や「ケロイド」が生じることがあります。いずれも傷が治ったあとに皮膚が赤く盛り上がり、硬くなるタイプの傷あとです。
傷あと化を促進してしまう「NG行動」
- 乾燥: 創部が乾燥すると上皮化が遅れ、炎症が長引きやすくなります。現在は湿潤環境を保つ「モイストウンドヒーリング」が推奨されています。
- 物理的刺激: 衣服との摩擦や創部への繰り返しの刺激は炎症を遷延させ、肥厚性瘢痕のリスクを高めます。また、紫外線は炎症後色素沈着や赤みを悪化させ、傷あとを目立たせる原因となります。
- 過度な張力(テンション): 関節や胸・肩など、動きによって皮膚に張力がかかる部位では、創部への機械的刺激が続くため、肥厚性瘢痕やケロイドが生じやすくなります。
💊 2. 薬剤師が提案できるケアアイテムの比較
傷あとケアには「保湿」と「保護」の両面が必要です。それぞれの特徴を理解しましょう。
| 成分・製品タイプ | 主な作用 | 向いている時期・状態 |
|---|---|---|
| ヘパリン類似物質 | 保湿、血行促進、抗炎症 | 傷が閉じた後の赤み・乾燥 |
| シリコンジェルシート | 物理的保護、保湿、圧迫 | 盛り上がった傷、術後の傷 |
| 遮光・UVケア製品 | 色素沈着の予防 | 全時期の紫外線対策 |
| 白色ワセリン | 物理的保護、摩擦低減 | 治癒過程の保護、乾燥防止 |
「ヘパリン類似物質」はあくまで保湿剤です。赤く盛り上がってしまった肥厚性瘢痕に対しては、保湿だけでは不十分なことが多く、遮光や物理的な圧迫・固定が必要になります。
🛒 薬局で案内しやすい市販のケアアイテム
患者さんに具体的な商品を聞かれた際に、提案しやすい市販アイテムの例です。
🩹 3. 実践!傷あとケアの指導フロー
患者さんにアドバイスする際は、以下のステップでヒアリングし、状況に応じた「プラスα」の提案を心がけましょう。
STEP 1:傷の状態を観察する
- 「まだ赤みが強いですか?」「盛り上がりや、かゆみ・痛みはありますか?」
- 注意点: 痛みが強い、熱を持っている場合は「感染」の疑いがあります。この場合はケア剤の前に皮膚科受診を強く勧めましょう。
STEP 2:湿潤環境の維持を伝える
- 傷が閉じきっていない段階であれば、絆創膏やハイドロコロイド(キズパワーパッド等)を用いて、湿潤環境を保つことが「傷あとを目立たなくする」近道であることを伝えます。
STEP 3:紫外線対策の重要性を強調する
- 傷あとにとって最大の敵は「紫外線」です。炎症後の色素沈着を避けるため、治癒後も継続的にUVカットテープや日焼け止めを併用するよう指導します。
⚠️ 4. 受診勧奨のタイミングを見逃さない
以下のようなサインがある場合は、市販薬での対応を止め、必ず医師の診察を促してください。
- 炎症の拡大:傷口が広がっている、膿んでいる
- 肥厚の進行:傷の範囲を超えて盛り上がりが広がっている(ケロイドの疑い)
- 過度な掻痒感・痛み:耐えがたい痒みや拍動性の痛みがある
🌿 5. まとめ:薬剤師としてできる「伴走」
傷あとのケアは、数日から数ヶ月という「長期戦」です。 「この薬を塗ればすぐに消える」といった魔法のようなものではありませんが、「保湿・保護・紫外線対策」という正しいケアを継続することで、傷あとの見た目は確実に変わります。
患者さんが焦って自己判断で市販薬を塗りたくってしまう前に、「今は保湿だけでいいのか」「保護が必要なのか」を専門家の視点でアドバイスしてあげてください。その一言が、患者さんの将来の肌を守る大きな一歩になります。
参考: 日本形成外科学会「ケロイド・肥厚性瘢痕診療ガイドライン」 日本褥瘡学会「創傷・褥瘡・熱傷ガイドライン」 Winter GD. Formation of the scab and the rate of epithelialization of superficial wounds in the skin of the young domestic pig. Nature. 1962.