吐き気しやすい抗癌剤、抗がん剤による嘔吐のしくみと薬ごとの違い
【薬剤師の現場エピソード】
外来化学療法の服薬指導中、患者さんから「今回の抗がん剤は吐き気が強いと言われたけれど、前回飲んだ薬とどれくらい違うの?」と尋ねられました。私は咄嗟に「抗がん剤ごとに吐き気の強さが違って前回と比べると今回の薬は吐き気が1ランク強くなりますね」と答えてしまいましたが、患者さんにはきちんと「なぜその薬が吐き気をもたらすのか」という根本的なメカニズムをうまく説明できなかったことに気付きました。
それ以来、患者さんの「なぜ?」に応えるために、催吐リスクの分類(リスクアセスメント)と、脳のどの部位に作用して吐き気が起きるのかを分かりやすく伝えるようになりました。患者さんの安心感を得るためにも、薬剤師がこの仕組みを知っておくことは非常に重要です。
外来化学療法の服薬指導中、患者さんから「今回の抗がん剤は吐き気が強いと言われたけれど、前回飲んだ薬とどれくらい違うの?」と尋ねられました。私は咄嗟に「抗がん剤ごとに吐き気の強さが違って前回と比べると今回の薬は吐き気が1ランク強くなりますね」と答えてしまいましたが、患者さんにはきちんと「なぜその薬が吐き気をもたらすのか」という根本的なメカニズムをうまく説明できなかったことに気付きました。
それ以来、患者さんの「なぜ?」に応えるために、催吐リスクの分類(リスクアセスメント)と、脳のどの部位に作用して吐き気が起きるのかを分かりやすく伝えるようになりました。患者さんの安心感を得るためにも、薬剤師がこの仕組みを知っておくことは非常に重要です。
抗がん剤による悪心・嘔吐(CINV:Chemotherapy-Induced Nausea and Vomiting)は、患者のQOLを著しく低下させる副作用です。この記事では、CINVの発生機序と、実務で使える催吐リスク分類について詳しく解説します。
🧠 1. なぜ吐き気が起きるのか?CINVの発生メカニズム
抗がん剤による吐き気は、主に脳の「延髄にある嘔吐中枢」が刺激されることで起こります。この刺激には2つのルートがあります。
- 化学受容体引金帯(CTZ)を介するルート: 抗がん剤が血中を巡り、脳の血液脳関門が発達していないCTZに到達。そこから放出されたドパミンやセロトニンが嘔吐中枢を刺激します。
- 消化管(末梢)を介するルート: 抗がん剤が消化管粘膜を傷害し、そこからセロトニン(5-HT3)などが放出され、迷走神経を介して嘔吐中枢を刺激します。
【ポイント】 特に急性嘔吐(投与後24時間以内)には「セロトニン」が、遅発性嘔吐(24時間〜数日後)には「サブスタンスP(NK1受容体)」が大きく関与しています。また予測性嘔吐は抗がん剤治療で吐いた記憶から抗がん剤に対する嫌悪感により起こる症状です。
💊 2. 抗がん剤の催吐リスク分類
ASCO(米国臨床腫瘍学会)やESMO(欧州臨床腫瘍学会)のガイドラインでは、抗がん剤を「催吐リスク」に応じて4段階に分類しています。
| リスク区分 | 嘔吐頻度(予防なしの場合) | 代表的な薬剤の例 |
|---|---|---|
| 高度 (High) | 90%以上 | シスプラチン、AC療法(ドキソルビシン+シクロホスファミド) |
| 中等度 (Moderate) | 30〜90% | カルボプラチン、イリノテカン、オキサリプラチン |
| 軽度 (Low) | 10〜30% | パクリタキセル、ドセタキセル、エトポシド |
| 最小 (Minimal) | 10%未満 | ビンクリスチン、フルオロウラシル(5-FU) |
💡 薬剤師の実務アドバイス
「高度リスク」のレジメンには、3剤併用療法(NK1受容体拮抗薬 + 5-HT3受容体拮抗薬 + ステロイド)が基本となります。患者さんが持参した「吐き気止め」が、果たしてそのリスクに見合っているかをチェックするのが、我々薬剤師の腕の見せ所です。
「高度リスク」のレジメンには、3剤併用療法(NK1受容体拮抗薬 + 5-HT3受容体拮抗薬 + ステロイド)が基本となります。患者さんが持参した「吐き気止め」が、果たしてそのリスクに見合っているかをチェックするのが、我々薬剤師の腕の見せ所です。
🎯 3. 薬ごとの制吐薬使い分け
制吐薬にはそれぞれ「得意分野」があります。
① セロトニン受容体拮抗薬(5-HT3受容体拮抗薬)
- 特徴:急性(化学療法開始後24時間以内)の悪心・嘔吐に最も有効。
- 代表薬: パロノセトロン(アロキシ)、グラニセトロンなど。
- 補足: パロノセトロンは半減期が長く、遅発性嘔吐にもある程度の効果が期待できます。
② NK1受容体拮抗薬
- 特徴: サブスタンスPをブロック。「遅発性嘔吐」の抑制に必須。高度催吐性化学療法(HEC)ではNK1拮抗薬は標準治療。
- 代表薬: アプレピタント(イメンド)、ホスアプレピタント、ネタピタント(アロキシとの配合剤シンセック)。
③ ステロイド(デキサメタゾン)
- 特徴: 炎症を抑えるとともに、5-HT3拮抗薬やNK1拮抗薬との併用で相加・相乗的な効果が得られ制吐薬の作用を増強します。急性・遅発性の両方に有効
- 注意: 長期連用による血糖値上昇や不眠に注意。
④ 多元受容体作用抗精神病薬(オランザピン)
- 特徴: 多数の神経伝達物質受容体(ドパミン、セロトニン、ヒスタミンなど)を遮断することで、急性・遅発性悪心の双方を抑制する。
- 注意: 眠気や便秘、高血糖に注意
⑤ ドパミン遮断薬
- 特徴: ドパミンD2受容体を遮断して制吐作用を示し、主に突破性悪心やレスキュー治療で使用される
- 代表薬: メトクロプラミド(プリンペラン)、ドンペリドン(ナウゼリン)
- 補足: 現在のガイドラインでは、高度催吐性化学療法に対する第一選択ではなく補助的な位置づけ
📋 4. 患者指導のチェックリスト
患者さんに服薬指導をする際、以下のポイントを伝えると信頼度がぐっと上がります。
- 「吐いてから飲む」のでは遅い: 予防が基本です。処方された通りに、時間になったら(あるいは吐き気が出る前に)必ず服用するよう伝えてください。
- 頓服薬の使い方を確認: 予防薬を飲んでいても吐き気が出た場合、どのように追加の吐き気止め(メトクロプラミドやオランザピン等)を使うべきか、具体的な基準を共有しましょう。
- 副作用のモニタリング: 制吐薬自体(特に5-HT3拮抗薬)の副作用として「便秘」が非常に多いです。下剤の併用が必要かどうか、必ず確認してください。
🌿 5. まとめ
抗がん剤治療中の患者さんにとって、吐き気は「治療を継続できるか」を左右する重大な因子です。
- 高度リスク: NK1+5-HT3+ステロイドの3剤併用を徹底。
- リスクに応じた予防: 患者さんが受けるレジメンのリスクを把握し、不足がないか確認する。
- 副作用ケア: 制吐薬による便秘などの副作用にも目を配る。
「吐き気で治療が辛い」という言葉を「仕方ない」で済ませず、適切な制吐療法の提案を通じて、患者さんの治療継続を支えていきましょう。日々の処方チェックの中で、制吐薬の抜け漏れがないか確認する習慣をぜひつけてみてください!